++夢と、現実と++




回を選ぶと飛びます。
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前半戦 ところで、最近超おどろいた事がある。 夢の中でよく出てくるアイツが俺の前に現れた事だ。 「ねえ、いつも何で歌ってるの?」 体全体がほっそりとして、長い黒髪を持ったその女は男に尋ねた。 駅前で他の男3人と楽器片手に歌っていた男は口をあんぐり開けて驚いた。 なぜこの男はこんなにも驚いているかと言うと、この男の目の前に立っている 女は毎日と言っていいほど、男の夢に登場する理想の彼女だからだ。 「歌いたいから」 しかし、男はいきなり登場した理想の彼女に、ぶっきらぼうな一言しか返せな かった。男は心の中で少し叫んだ。 男の名前は河村崇司。もう今年で成人するが、まだ職もなにもないフリーター。 まぁ、俗に言うプーというやつだ。 隣にいる男達も同じだ。 「ふーん。明日もここに来ていい?」 女は崇司聞いた。崇司はしゃがんで、その上目づかいは犯罪だと思った。 「いいよ。いつでも来てよ。大体この時間は歌ってっから」 崇司がそう答えると、女は口の端に笑顔を浮かべて、颯爽と夜の街へ消えてい った。 「崇司ちゃん、あれ誰?」 隣に座って、ベースを抱えている間宮秀太が隆の頬をつんつんしながら聞く。 「わかんねー。でもあの人俺の夢にいつも出てくんだよ」 崇司がそう言うと、秀太の隣に座っていた天谷翔が飛びついてきた。 「それって運命の彼女ってやつぅ〜↑??メルヘンじゃん」 しかし、崇司の隣に座っているドラムの石垣勝は、ドラムを運べないので、ス ティックだけ持って、それを崇司にぶつけて言った。 「どぉせ、あの子だってお前の夢の中で毎日犯されまくりなんだろ??」 その一言に崇司は少しだけプツンと来た。 「ちげーよ、バカ」 ちなみに、かなりプツンと来なかったのは一度や二度そんな夢を見たからだ。 とは、さすがにバカ扱いした後には言えないが。 「でも、マジでビビったっしょ?いいなー、運命の彼女。明日も来るんだろ?」 翔は夜の空を眺めて言った。そう言うのは、翔はそんな出会いをした事がなく、 今もフリーを驀進中だからだ。 「あー。来るって。なぁ、もう一曲歌おうぜ」 人間なんて 所詮 作り物でリアルじゃないから こんな私の歌を聞いてくれてありがとう だってそれは理屈じゃない 事実 あなたがここで居てくれている 事実 どうせ言葉だけ 言うだけなら 何もしなくていい リアルな物だけ頂戴 人間なんて 所詮 作り物で リアルじゃないから この歌は 耳に届きますか 作らなくていい 誰も 見てはしないんだから 事実だけ頂戴 「なんか、いい歌ね。現実主義??よくわかんないけど、カッコいいじゃん」 新しく作られたばかりの曲を聴いて女は崇司に言った。崇司と女が喋っている ときは、必ずメンバーの誰かが見てニヤニヤしている。 「ああ、今の曲?」 実はこの曲は、この女の出現について崇司によって書かれた詩だ。 こうして女を目の前にしてしまうと、そんな事は崇司は口に出せない。 「うん、イイ感じ。あたし、気に入ったよ、あんた達。ライブはやってるの?」 すると、横で聞いていた、勝はニコニコしながら女に言った。 「やってるって〜!!主にそこのM・BEATっていうクラブで!!」 勝が指差したのはすぐそこ、駅からホントに少し離れたクラブだ。 「今度L−PUNISHMENTのワンマンやるから絶対来いよ?」 そう誘ったのは秀太だ。 女はまた笑顔を浮かべて、4人に言った。 「絶対いくね」 崇司はその笑顔に顔を赤くした。しっかり3人は崇司の表情を見ていた。 この歌がここで聞こえるのかい そこに居れば聞こえる 事実 あなたがここで作っている 事実 どうせ色々作るのならさぁ 考えなくていい 真実だけ頂戴 崇司はもう一度、自分で作った女の唄を歌った。 それは、優しいようで、愛のようだった。 後半戦 女は、さっき女が褒めた曲を女の為に作られたものだと知らない。 男達は今日も駅前で歌っている。 あなたも 所詮 作り物なのかい 金のメッキを剥がしてよ 誰が隠れてる 隠さなくていい 誰も 気付かないんだから 真実だけ頂戴 ところで、俺は思うことがある。 まだ、あの夢にいつも出てくる女の名前を知らない。 別に名前何てどうでもいいんだけどさ。 「なぁ、勝。お前はどー思う?」 「80%くらい?結構行けるんじゃね??」 「翔はどーよ?」 「俺はぁ・・・87%!」 「中途ハンパっ!」 「そーいう秀太はどうなんだよ?!」 「俺?俺はぁ・・・崇司の勇気を期待して99%」 「てめーら、何の話してんだよ?」 バンドの詩担当の崇司がぼーっと頭の中に浮かんだ言葉を綴っていたら、隣か ら自分の名前が聞こえて来たので反応した。 「え?ライブの後のお持ち帰り率。理想の女の」 今回はキレる気力もなかった。 崇司は深いため息をついて思った。 だって、まだ名前すら知らねーんだぜ? 『ねぇ、崇司くん。明日、またここで会えない?』 『いいけど・・・一つ聞いていい?』 『ん?』 『君の名前は・・・??』 女はまた口の端で笑って、消えていった。 崇司はベッドから起き上がった。 気づいたら、またあの女の夢を見ていた。 女の出現によって、夢への登場回数が極端に増えた。 崇司は少し自分の鼓動が早くなっていることにも気づいた。 これは、なんなんだ・・・?? L−PUNISHMENTのLはLARGEの略。 バカな男4人の解釈では「でっかい罰」という意味だ。 男達の英語力があまりにもない事には突っ込まないで頂きたい。 ライブ当日になった。 L−Pはいつも駅前で歌っていることもあって、顔が知れていて、いつも客の 入りがいい。この日も、盛り上がるには悪くないほどの人が入った。 崇司は少し考えていた。 そう、このライブにあの女も来るのだ。そう言っていた。 名前を・・・聞くか。 「なぁに、悩んでるんだよ、タカシ!ボーカルのお前がテンション低いとMC もさえねぇだろ!」 「バカ。今考え事してんだから、そっとしとけよ勝。女をどう攻めるか考えて んだよ」 「お前らは、シモい事しか考えねーのかよ、ライブの前でも;」 もう、ライトも落として真っ暗で、客の叫び声も聞こえてくると言うのに、こ の会話は間違っている・・・なんて、男達には突っ込まないで頂きたい。 「おっし、いくぞ!!!!!」 男達はステージへと飛び出していった。 だから お願い 仮面を外してよ 歌が終わるとMCに入る。 その前に、少しだけ、少しだけ崇司は覚悟を決めて、見回した。 ちょうど、真ん中に女は居た。 「おい、女!名前教えて!」 崇司は叫んだ。マイクを使っているので周りの客の声で掻き消されることはない。 女は、自分に問われているのだと、気づき、崇司の目を見た。 「赤坂!赤坂夏芽ってーの」 崇司は笑った。男も笑った。客も笑った。 仮面を外した女は、赤坂夏芽という女だった。 夢でない、現実。 彼女はすぐそこにいる。 **END**
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