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Without you




++Without you++




「ねぇ、もう別れない?私たち」
そう彼女から話を持ち出されたのは昨日の夜のことだった。
自分としては別に彼女とは今まで上手くいっていたと思っていた。
それが自惚れだったのかもしれない。
原因は彼女に好きな人――…というよりは“彼氏”が出来たからだ。
自分はつまらない男だったのだ。
そう思うことにした。
だから浮気されて、別れるしかなかったんだ。
俺がしょうもない男だったからだ。
そう思うしか心の行き場がなかった。
いきなり、かなり突然のことで涙も出なかった。



鏡の前に立つ。直りきっていない寝癖。
不細工な自分。
これも別れた原因なのか。自分に見えるもの全てがつながってしまうようで。
悲しいかな。
思ったよりも痛手だった。
相手から別れを宣告されたのは初めてのことだったから。
それ以上に、自分は彼女には本気だったから。
彼女を無くして自分はどうしよう。
彼女を無くして自分は誰に心の安らぎを求めればいい。
それでもしょうがない。
彼女は自分から離れ去っていってしまったのだから。
彼女は、もう行ってしまった。俺を残して。



ケータイがなる。着メロはEMINEMの「WITHOUT ME」だ
この歌詞とか過激さが気に入って変えられない。
俺はもうあいつの虜。ヤバすぎる。
「もしもし、誰?」
「誰は無くない?タカコだよぉ〜」
「何だ、タカコかよ、誰かと思った。なんでこの番号知ってるんだよ」
「この前教えてくれたじゃない、忘れてるの?…ねぇ、何かあったの?」
あった。ありまくった。
「彼女と別れた」
訳も無く何かしようと思う。
この気をまぎらわしたいから。
「今から会える?」
彼女が居ないと、ひどく空っぽな感じがする。




「ねぇ、ちょっといたいってば」
気づくとタカコの腕を引っ張っていた。
「ごめん」
「ねぇ、話なら聞くよ?」
こんな優しさにかまけるのも、彼女がそばに居なくなったからだ。
彼女のせいなんかじゃない。
彼女に魅力を感じさせなかった自分のせい。
自分の気持ちをぶつけられなかった自分のせい。
タカコが可愛く見えたんだ。
この気持ちはよく分からない。
だけど。
だけど。
駅西公園。風が心地いいくらいに吹く。
ぽかぽかしていていい天気。
周りには子供をつれて遊んでいる母親が居たり、カップルが居たり。
だけど。
周りを気にする前に手が動いた。
タカコを抱きしめていた。
「恭二・・・?」
何をタカコに求めているんだろう。
何の意味があるんだろう。
「俺は・・・どうすればいい」
自分は馬鹿だ。
コレは自分の問題だ。
他人に分かるわけも無い。
でも。
答えをタカコに求めている自分が居る。
何で。
何がしたいんだ、自分は。
「そんなの、また新しい恋を探せばいいじゃない」
タカコは真っ直ぐ前を見て言った。
コレが答え。
そうなのか。
それなら、真っ直ぐ前を見て、新しい恋を・・・
視界に見慣れた人と、その人の連れが見えた。
頭が痛くなった。
真正面には彼女が居た。
彩子が居た。隣に居るのはきっと上司だと思う。
すらっとした逆三角形で、スーツが良く似合う。
部下を指揮するのがとても上手そうな顔。
自信を持った態度。
整った顔立ち。
硬くつないだ手。
頭の中をいろいろな物がシンクロした。
しかし、彼女は自分のほうを見ている。
じっと。目を離さない。
彼女に・・・見られた。
「最低!!!!!!!!!!!!!!!!」
彼女はタカコと抱き合っている自分に対して言った。
目に涙をいっぱい溜めて。
その涙は・・・
もう別れたのに。
胸のうちに何か込み上げるものがある。
彼女は走って自分の目の届くところから去ろうとしている。
上司らしき男はそれを追いかける。
行かずにはいられない。
あの涙は。
「早く行きなよ」
だってあの涙は。
まだ嫌いになれない涙だから。
タカコが抱きしめた手を思いっきり弾き飛ばしていった。
でも笑っていた。
「それがあんたの恋なんでしょ!」
心が走り出した。
もう止められない。
コレが恋なんだと思った。
上司らしき男を追い抜かして、彼女が見えた。
まわりの景色なんてもう見えない。
あと3メートル。
あと2メートル。
あと・・・。
「彩子!!!」
手を引っ張った。
何と言われても構わない。
「何よ!話して!!話してよ!!」
「嫌だ」
「何で?私たち別れたんだよ?!」
彼女は泣くのを堪えているような顔をしている。
握っている手は震えている。
「じゃあ、何で泣くんだよ」
「・・・」
「俺が泣きたいよ」
彩子の目から涙が溢れた。
大粒の真珠のようなきれいな涙。
「俺・・・おまえが居ないと駄目なんだ・・・居ないとひどく空っぽなんだよ」
上司の男が追いついてきた。
少し足が遅い。
「オイ、なんなんだお前!元彼か?」
上司はそれでもそれなりに一生懸命走ってきたらしく息がぜーはー背中から言っている。
「ああ、元彼だよ。それが何か問題でもあるのかよ、おい」
「ありすぎだ。人の女に手ぇ出すんじゃないぞ!!!!」
上司は自分に向かって拳を振り上げた。
殴りかかってきた。
ボゴッ。
「い、飯沢さん!!やめてください!!」
彼女が叫んだ。
その飯沢とかいう男の腕を掴んで必死に殴るのを止めさせようとしている。
彼女は知っているから。
「やれよ。まだ足りねぇんだろ?」
だから俺は挑発してやった。
かわいそうだが、彼女のその声は上司には届いていない。
みぞおちを蹴り上げた。
顔も数発殴られた。
「なんで、何でお前はこれだけやられて倒れないんだよ?!」
飯沢という上司が自分に向かってキレている。
こういう奴を見ているとムカムカする。
あの涙は。
あの涙がずっと心に引っかかっていて。
「おい、飯沢だっけ?お前今俺に何発入れたか覚えてるか?」
頭に血が上る。
「や・・・・やめて恭二!!!!!!」
彩子は知っている。
自分の内に秘めた凶暴さを。
昔の俺を。
どんな奴だったか。
「6発。お前が12発だった。覚えてるだろ?だから・・・」
「だめ!!!」
「だから俺はその半分でお前に返してやるよ」
彼女が自分と上司の間に入った。
「駄目だって・・・恭二・・・。だってそんなことしたら・・・飯沢さん死んじゃう・・・」
「分かった。じゃあやらねぇ。だけど・・・」
グイっ。
「な、何をするんだ?!」
スーツの胸倉をつかまれた飯沢という上司は言った。
額に汗をかいている。
「お前は・・・役不足なんだよ。なんで泣くんだよ。なんで泣かせるんだよ?!
ホントにテメェが彩子にふさわしかったら泣く訳ねぇじゃねえか。
何だよ、テメェ何か言えよ!!!!」
「役不足なんかじゃない。お前より資本力もある。安定した生活も送れる。
彼女に何不自由なく何でもしてやれる。お前は・・・」
ボゴッ。
「恭二!」
「お前なんて呼んでんじゃねぇよ。そんな話はお前に聞いてない。金がどうとか。
俺は・・・好きなら泣かせるなって言ってるんだよ!!!
金があるないの問題じゃねぇんだよ」
上司は口から血を流した。
たった一発だけ。
たった一発だけ腹に打ち込んだけれど。
まだ辛うじて意識がある。
でもきっと、まだ自分ひとりで歩ける状態ではなさそうだ。
そっと手を離してその場に倒した。
「彩子・・・俺・・・」
彩子に向き直ってそう言うと、彼女は自分の手をぎゅっと握った。
「あたし・・・ごめん。いきなり別れるとか言って。泣いたりして。」
それがどんな意味をするのか。
「一日でも離れると・・・寂しくて。っていうか、飯坂さんが好きで、一緒になった
筈だったのに、二人で居るときも恭二の事思い出したりして。」
同じだ・・・。
「浮気してて・・・ごめんね」
彼女は嗚咽を繰り返した。
沢山の涙を流した。
もうそれだけで十分だ。
それでも一生懸命まだ喋ろうとする。
「でっ・・・うっ・・・もし、恭二さえよかったらっ・・・っ・・・」
ぎゅ。
そっと彼女を抱き寄せた。
「彩子、無理して喋らなくていい」
しかし彼女は。
「嫌」
自分の言うことなんて絶対聞かない。
そんな女は初めてだったし。
もう二度と忘れられない女。
「もう一度や・・・やりなおして欲しいっ・・・」
自分の胸の中で泣いた女。
自分の心に住みついて離れられなかった女。
忘れられなかった女。
「当たり前じゃん」




後、上司と彼女の交際は断ち切られ、自分と彼女はまたもとの生活に。
「うわっ、この家に戻ってきやがったこの女!」
「何よ、本当はあたしが居ないと頭空っぽで何も出来ないくせに」
また同じ屋根の下で暮らすために荷物を持ってきた彼女が笑ってそう言った。
また笑いあえる。
かっこよくみえなくたっていい。
傲慢じゃなくても。
過激じゃなくても。
そんな事心でわかっている。
居なかったら頭がからっぽになる事くらい。



**END**
















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