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写真立ての二人〜あの頃はもう







++写真立ての二人〜あの頃はもう〜




窓には新しいカーテンを。テーブルクロスも新しいものに変えた。だけど麻智
の趣味で飾った花は未だダイニングテーブルの上にある。
一輪のカサブランカの花が大きく咲いている。
サイドボードには麻智と二人で沖縄へ行った時の写真が立ててある。幸せそう
な顔。日焼けして黒味が勝ったその顔はまんべんの笑み。
暑いのだろうか、日光が眩しい。
南国を思わせるビーチ。背景には大勢の人がいる。でも、君はもう居ない。





「ねぇ、よっちは彼女つくらないの?」
駅から歩いて10分。信(ノブ)の家の近くにあるバー『林檎』で飲んでいる
時だった。
「まぁだ忘れられねーんだろ、麻智のコトがよ」
「ああ。つーか佑、お前も彼氏作れよ」
「顔が可愛い女でも性格ブスは嫌われるのよ。分かってるでしょぉ?」
信はグラスに何倍飲んだか分からないくらい。自分はもう6杯目だった。
佑はもう飲みすぎで酔って、バーの店長に文句をたれている。
気付くと時計は1時を過ぎていた。
「ヤッバ☆もう終電行っちゃった・・・。信、泊めてって!」
佑は次の駅まで行かなくては帰れない。信の家は近いから、泊めろと頼む。
「ダメだって。今オレの家さ、友達カップルが居てさ・・・オレ邪魔みたいでさ」
信の友達は23歳でオレ達とも同年。だけど、ガラの悪い仕事の無い奴らが、
金が無いのを理由に信の家をホテル代わりに使ったりする。そのおかげで、信
は家に帰りたくない時があるのだ。
「じゃあ久志ん家は?」
「あ、よっちの家かぁ〜」
「オレの家、20分かかるよ、ここから」
「いーーーーーーーーーーの」
佑と信は声を揃えて言う。まぁ、たまにはいいか。
部屋の雰囲気も少し変わった。
酔っ払い2人位ならなんとかなるだろう。そう言って3人は歩き出した。




家に着いたら、もう1時40分位だった。寄った足で歩いたからだろう。
でも、おかげで多少の酔いは覚めた。
佑と信はカギを開けると勝手にズカズカ入り込んで行った。
「部屋変わったなぁ〜。カーテンとかさぁ」
もう夜も遅い。カーテンを閉める。ノブはサイドボードの方に目をやった。
そこに在るのは写真立て。あの頃の2人。
佑は気付いていない。そう思って口に出さなかったのだろう。
佑に知られると大変だから。
そして、3人は布団に入る。信と自分、そして佑は1人で別の部屋。
やはり男2人の部屋に女が1人というのも危ない気がするし。



「なぁ、久志」
「何」
その時何が言われるかなんて分かっていた。暗い部屋に布団並べて語る。
「麻智のコト・・・忘れられないのか?」
ほら。
「ああ」
暗くても分かる。信の表情が変わったのは。
「死んだんだぞ、麻智は」
そんなのは分かっている。知っている。感じたから。
麻智の体温が少しづつ冷たくなるのを。
麻智の表情がどんどん青白くなるのを。
「それでも。オレは麻智を愛してる」
忘れる事が出来ないのは、麻智より愛しい人が居ないから。
いつか約束した事覚えてる。
『お互いに何が合っても愛してる』
麻智、たとえ死んでも忘れない。愛してる。
「でも・・・麻智は・・・」
「いるよ。オレの中に。臭い事言うけど、あの頃は、一番楽しかったあの頃は
もう戻らない。勿論麻智も。だけど心の中に生き続けるよ。オレがあいつを愛
し続ける限り」
麻智が居る事に越した事は無い。でも、時間を巻き戻しは出来ないのだから、
麻智は戻らない。一番愛しい人。
忘れようとは思わない。むしろ、片時も忘れたくない。一番愛しい人。
「臭っせぇ〜。ホントに23歳の男の台詞かよ」
信はそう言った。そしてボソリと。
「麻智はここにいるよな」
そう呟いた。



写真立てのような2人は蘇らない。望んでも、二度と。
でも、2人は生きている。
そう、ずっとずっと。


**END**



















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