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卒業









++卒業++






「ねぇ、幸。お前はもう小学校も卒業か?」
暖炉の前でどかんとイスに座ったサトエおばあちゃんが私に聞いた。
でも少し違う。
おばあちゃんは私のことをいつも小学生と勘違いする。
「違うっておばあちゃん。中学校卒業するの」
もう年だからしょうがない所もあるのだけれど、何回も間違えられると、勘
にさわるけれど、悪気は無いんだからしょうがないよね。
「そうかそうか。ばあちゃんもな中学校の卒業には・・・・たぁ〜くさん思い出
があったんや。」
そう言って暖炉に薪をくべて話し始めた。
「あれはもう何十年も前過ぎて何年前かは思い出せないけれど、卒業式の頃。
おばあちゃんには幼稚園位の頃からずーっと好きだった人が居たんだ。
今考えるとこうやっておじいさんと一緒に居るのが不思議だけど、凄い好きな
人がいたんだ」




古い木造の校舎。早咲きの桜がもう風に乗って舞い始めている。
地面には沢山の花びらが、まるでもう終わったしまったかのように足で潰されて
惨めにじっとしている。
「うっ・・・もう皆と会えなくなっちゃうね・・・」
髪の毛がお下げのかわいい女の子が涙をこぼしている。
「あっう…絶対また会おうね」
サトエも嗚咽を止められずに涙をこぼし、地面に手をつく。
空は嫌なほど青くて、したくもない卒業を祝っているようで腹が立つ。
だけど。
皆頭の中では離れなくちゃいけないとは分かっている
でも心がついていかなかった。
このご時世。
いつ日本は戦争を始めるか分からない。
緊迫した国内情勢に、正直何時死ぬかなんて想像すらできない。
だから、離れたくないと皆思うのだ。
「おい、サトエ!お前なに泣いてっだ?」今でいうスポーツ刈りの少年だった。
活発適そうな顔で、今の今までそこらでもみくちゃにされていたようだ。
「悲しいのか、離れるのが」
こいつ正気かといわんばかりの目で聞いてきた。腹が立つ。
「当たり前でしょ?」
「何で?」
「何でって・・・」
「離れても友達なんだからいいじゃん」
刃のように突き刺さった。
じゃあどうすればいいのか教えてほしい。
会えなくなった寂しさを。
それに、ついでに好きな気持ちも。
「あんたは寂しくないの?!」
頭が追いつかない。心が先走って。
こんな卒業は一生忘れられないと思った。
実際にそうなったのだが。
「あたしは寂しいよ!みんなと会えなくなるのは。あんたと!あんたとも
会えなくなるのが寂しいわよ!あんたの事ずっと好きだったんだから!」
そう言ってサトエはさっさと家に帰ってしまった。
後になって凄く後悔した。
それが最期の、二人の最期の言葉になってしまったから。
もう戦争はそこまできていて、そんな状態での卒業式だったから。
その後一言も言葉を交わすこともなく、彼、タケルは戦場へ行った。





「じゃあ、タケルは死んだのよね?」
「いーや、分からない。でも、同級生からも誰もそんな知らせは聞いてない」
ばあちゃんは細い目をしている。
じゃあ、死んでないのね。
「死んでないのなら、なんで会わなかったの?好きだったんでしょ?」
暖炉の炎は赤々と燃える。
もう春の候なに子寒い空気。
「好きだったけど。聞きたくなかった。それに・・・あの人の心の中では、
昔のままの私でいたかったから」
おばあちゃんの目からうっすら涙の筋が見えたような気がした。
それでも、それでも会おうとしないのは。
おばあちゃんが卒業したから?
殻を破ったから?




3月20日、卒業式―――――――
チャイムが鳴る。
桜の木はまだつぼみ。
何も舞わない。空には雲が。
それでも人は変わらないもので。
「うっ・・・絶対また遊ぼうね・・・」
「うん、絶対ね・・・っ」
泣くことじゃない。
卒業は泣くんじゃない。寂しくなんか無い。
また新しい自分になる為にあるんだから。
「何で泣いてるの?一生会えないわけじゃないんだから!離れても友達なんでしょ?」
その姿はどこかキラキラしていて。
誰かの面影をその中に見た。


**END**












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