+++マキの恋+++




回を選ぶとそこに飛びます。
    
コポコポコポ…コポ……。コポコポ…… 「博士、『マキ』はあと一時間弱で誕生しそうです」 「おお、そうか。マキが出来た暁には盛大なパーティーを…」 試験管を手に持って反応を見ながら2人は話している。 博士の持っている試験管はピンク色に、助手のは赤色に反応している。 「パーティーは……『マキ』の地球での調査が成功してからよ?」 助手はその試験管を火にかけて煮えたぎらせ、博士のモノと混ぜた。 「ああ、そうだな。コレからがマキの旅だ」 20XX年―――――――― 今日から17歳で高校生として1週間の地球体験ツアーだ。 『マキ』と呼ばれる人造人間は人間の機能を全て備えている。 今は『マキ』では無い。藍川真紀という名もある。 真紀が地球に派遣されたのは他でもない、人間の必要性を確認する為だ。 人間は無責任な生き物で、汚染したのは地球だけでは済まなかった。 宇宙は―――苦しんでいる。 そこで宇宙の星々の研究チームが力を合わせ開発したのが、私。 実はこの人間の機能に加え、数々の機能もあるの。 恐ろしい事に、銃弾をも跳ね返してしまう体。 これから一週間、「高校生」として地球を見る。 藍川真紀が一週間だけ編入するのは私立晴嵐学園の高等部2-B。 「今日からこのクラスに入ります藍川真紀です(一週間だけだけど)仲良く してやってくださいね。」 人間の機能だけではなく、真紀は容姿端麗で頭脳明晰だったから、第一印象 は凄く好印象だった。数学の問題も前で簡単に解いて見せ、運動神経も良い ので体育のリレーでは県大会で優秀な成績を収めた選手をも抜いて見せた。 その大和撫子的な存在に男子は興味心身で、女子は友達になりたいと心から そう思った。 「藍川さん☆私橘芽衣っていうの。友達になって!って友達になるのも変だ けどね…へへ」 「いいよ〜。私の事は真紀って呼んでvvそれで…芽衣って呼んでいい?」 真紀が微笑んでそう言うと、芽衣の頬はピンク色に染まっていた。 「いいよ☆★ありがと、真紀v」 ――――――これは一週間きりの友情で、それが過ぎたら無かったことにな ってしまうのですか? 私の席は窓際一番後ろで2人席。結構授業中も快適に過ごせるかも。 でも、そんな真紀が気になっているのが隣の席の男子。その奴の名は盛川葵。 授業中も結構優しい所とかあって、真紀がシャーペンを落としたりすると、 「ハイ、落ちたよ?」とか言って拾ってくれたりして結構な性格。 そのシャーペンを拾う手は大きくて包み込むような感じ。はっきりとした顔 立ちに長いまつげ。はっきり言ってカッコいい。彼女の一人か二人居てもお かしくない。 「ねえ、盛川クンって彼女何人居る?」 真紀がホームルーム、先生の話しも聞かずにそう質問すると笑って言った。 「あはは。おもしれ〜奴!普通彼女何人居る?じゃなくて彼女居る?って聞くよ この場合は。あはは!!!っていうか人数の前に今彼女居ないからさ〜」 「あは、そうだよね。ゴメン☆あはは〜」 先生にちょっと睨まれてボリュームダウンして話している。頭の中にインプッ トされていく記憶。『人間は思い道理にならないと睨んだり――』 こうしている間にも真紀の寿命は短くなっていく。 「真紀って天然だよねぇ?あ、真紀て呼んでいい?」 胸がドキドキする。奥底から煮えたぎるようなこの思い。 今日はじめて出会ったばっかりなのに…この気持ちはなんだろう…? 「うん、いいよ。じゃあさ〜葵って呼んでいい?」 真紀が微笑んでそう聞くと、芽衣みたいに頬をピンク色に染めて照れて、言 った。 「うん、呼んでv大歓迎、真紀に呼ばれるなら」 ――――――この思いも一週間きりの思いで、抑えきれるのですか? 思ったより一日は早く過ぎて、二日目も三日目も直ぐに颯爽と過ぎていった。 放課後は芽衣と過ごして、遊びに街に出たり、泊まったりした。学校では、 他の友達と喋ったり、葵とか他の男子と帰りに遊んだりした。 分かった事があった。芽衣に対する友情と葵に対するこの思いの違いが。 これが『友情』と『恋心』の違いだと分かった。 頭で分かっていても、こうやって身を持って体験したから。 こんな私で許されるのですか。人造人間でしかも地球人じゃない私が…人間に 恋をして許されるのですか。たった1週間きりしかない時間なのに、恋をする 意味は―――――――あると信じたい。こんな私でも。 人間生活四日目。今日は一日が過ぎるのが遅く感じた。 一日にあまりに沢山の事がありすぎて。 昼下がりの校舎。ちょうど、今お昼休み。 「真紀〜プール行こうvv今日温水プール開放日だよっ」 芽衣はたった4日の間に真紀の一番の友達になってしまった。 この学校は1ヶ月に温水プールを解放する日が3日ある。その日には皆がそのプ ールに自慢の水着を持って集まる。だから今日は水着を持ってきた。 プールは別校舎になっていて少し遠い。歩いて行く途中、誰もが一度は振り返 る。それも男女関係無く。何所に居ても真紀は光って見える存在だからだ。 でも「わー、きもち〜v」なんて言ってはしゃぐ子供のような真紀だ。 プールが初めてだったから、楽しかっただけだもん。 水を経験できたのも・・・この調査があったから。 「真紀☆」 誰?と振り返るとそこには葵が居た。 「俺だよ〜!転校してきて初めてじゃない?こういうプールのとか」 そう聞かれて、とりあえず話をあわせてみた。 「うん、こんな学校初めて。でも面白いよ?」 初めてどころかプール自体入るのが初めてだもん。星では、こんな物なかった から。それは名も無い星で調査計画の本部がおかれている程の星でも名は無い。 私も最初はそうだったのでしょう? 私はそれでもこの地球に居させてくれるのなら存分楽しむけどね♪ 「あ、あのさ・・・真紀、そ、その水着かわいいね?」 葵が赤い顔して言った。目はボーダーのワンピ―ス(水着)を見て言った。 「そ、そお?ありがと!」 真紀が喜んでそう答えると、今度は真剣な表情で言った。 「あのさ・・・俺、会ってすぐなんだけど・・・真紀の事好きなんだ」 私のこと・・・好き・・・。 「え・・・っと私もね、会ったばかりだけど葵のこと好きだよ。」 それでも私は人間ではなくて、そして人造人間で―――地球で作られた人形で もなくて。それでも私は想ってるから。おかしいものだよね。 残された時間も少ししかない私が、この地球で何が出来るのだろう――― 愛する事、どんな事なのかも未だ分からないのに。 楽しむ事、それが何のためになるのかも分からないのに。 でも、何かをしなくてはいけない気がして。そう思わず答えてしまったの。 このまま私は溶けてしまえばいいのに。そうすれば、何も考えなくて済む。 所詮、人形が何か考えた所で何もならないんだろうけれどね。 だから、出来る全てを、この地球にぶつけて・・・消えてしまいたいと、思った。 出来るなら・・・もう少しの時間が欲しいけど・・・我侭だよね。 「大好き・・・真紀・・・大好きだよ、出逢ったばかりだけど・・・好き・・・」 葵の手が真紀の肩にまわってぎゅっと抱き締めた。暖かい感触にずっと抱かれ ていたいのに。ずっとこのままでいたいのに、時は過ぎていってしまうの? だから、私は出来る限りのすべてのことを、残りの日々で。 友情のために、恋のために、そして、自分のために。 「大好き・・・私も」 今2人、誓いを交わす――――― 神様、私は我侭です。人形の分際で、恋をしました。 もうすこし、時間が欲しいなんて思いました。 でも、ホントに足りないこの時間をどう過ごしていいのか、考えて、出た答え。 でも、そんな私の気持ちなど気にしない様に時は過ぎていく。 私は、少しでも、この地球に私だけの歴史を残してから消えたいって願ってる。 「おっは〜☆真紀。葵クンと付き合ってるって?!転校早々やるわね、真紀も。 お母さん嬉しいわ〜v」 なんてふざけ口調で言ってる芽衣だけど、コイツだってしっかり彼氏もち。 「おい、朝っぱらからうるせーよ、芽衣。あ、真紀ちゃんだ、ちわっす」 こんな憎まれ口を叩いているのは芽衣の彼氏、牧原晃。こう見えても、かなり 優しいし、頭もいい。芽衣にはも・・・もったいないなんて言ってません(笑) 今日で人間生活5日目。残りは2日しかない。 この事実をどう打ち明ければいいの?教えて欲しいのに、其処に誰も居ない。 「おはよう真紀☆今日も愛してるよ」 なんて台詞を吐いて登場したのは葵だ。 「おは・・・」 言いかけた真紀に割り込んで芽衣が葵に話し掛けた。 「葵クン、あんたやるわね!!この憧れの的真紀をゲッチュ―するなんて、まっ たくムカつく!!!私の真紀を・・・幸せにしてやってねっ!!!!」 なんてふざけあって話しているのが日常。でもコレは日常じゃない。 はるかなる人生の内の儚い1週間で、もしかしたら私の人生は1週間きりかも しれないのに。あと2日だけなのに、どう打ち明ければいいの・・・? 太陽が沈みかけた頃、学校の帰り道。家路を急ぐ。 考えなければならないから、私の未来を。考えなければならないから、これか らを。どう足掻いても無駄な事位ずっと前から分かってる事だけど・・・。 それでも、何かをやらなきゃいけないきがして・・・。街に出た。 ネオンの光は真紀に眩しく語りかけ、人ごみの中にまぎれるようにして生きる。 ―――何か楽しいことがあるの?未練が・・・あるの? そう心に問われている気がして、気持ちが揺らぐ。なんて言えばいい? ―――あるかも。友達と大好きな人 そんな我侭を今更言った所でやっぱり何も変わる事なんて無くて、こんな私で も涙が出た。次々に溢れ出してきて、今までの不安な気持ちが爆発したような カンジで。 前に進もう。人ごみにまぎれながらでもいいから。前に・・・進んでいくと、見た 事のある人の顔があった。 「・・・真紀ちゃん?何してるの、こんな所で」 「晃くん・・・?うーんブラブラしてた」 其処に居たのは芽衣の彼氏、晃だ。晃は真紀の顔を見て、異変に気付いた。 「何か・・・あった?相談に乗ろっか?」 優しい顔が其処にあった。誰かに言わなければとずっと思っていた。やっと・・・ 「あのね・・・私・・・」 晃は吃驚した。でも、そこまで驚く様子は無かった。それに逆に驚いた。 やっぱり優しい晃くんは冷静に対応してくれた。 「そこまで迫ってるのなら、葵には別れを言ったほうがいい」 ・・・さよならを言いにいこう。 ケータイが鳴って、そこから聞こえる葵の声。これは幻想なの? 「あの・・・真紀だけどー・・・葵?」 「あ〜真紀、どーしたの?」 「・・・今から会えないかなァ。どーしても直接言いたい事があるの」 「うん、いいよ。」 時の中を走る私たち。時間は決して待ってくれないから。だからこそ今、 今、頑張るしかないの。今、伝えるしかないの。 「あ・・・葵・・・」 「真紀、どーしたの?」 走って、走って、走って。疲れ切った真紀の顔を見て、葵はまたぎゅっとした。 「疲れた?ちょっと俺で回復してみ」 ・・・やっぱり・・・離れる事なんて出来ないの、私たち。 「あのね、葵・・・私はあと1日ちょっとでこの地球を離れなきゃならないの」 「え・・・?」 葵もやっぱり驚いた。でも、コレは避けては通れないの。 「私は宇宙の星の研究チームが作った人造人間の最新鋭なの。地球を調査する 為に1週間だけこの地球に・・・。信じられない話かもしれないけど・・・マジ。私 の体を切り裂けば、人じゃないし、でも、感情は普通と、普通の人間と同じよ うに働くから・・・私は・・・葵のこと好きになった。ねえ、こんな人形に好かれて も全然嬉しくなんて無いよね・・・?」 でも、真紀の思ってもいないようなことを葵は言った。やっぱり驚いたけど。 「俺さー、また臭い台詞吐くけど、真紀が人間じゃなくても・・・きっと上手くや っていけると思ったよ。人形だけど・・・人間じゃん?大好きだよ、これからも」 安らげる言葉。それはどんな言葉よりも臭くて、奇麗事なんだけど、それでも、 一番嬉しい言葉を私にくれた。でも私は1日しかないの、この星も。 「でも、明日でさよならしなきゃいけないの。嫌だよ、離れるのは――こんな にも・・・こ・・・こんなにも好きな・・・」 涙が次々にあふれ出てくる。喋り続けようとした真紀の口を、塞いだ。 コレが最後だなんて思いたくはないの。でも最後なの。 感情がぶつかり合うようなキス。これで終わっちゃう恋なんて悲しい。 「俺だって・・・俺だって離れたくねーよ!!でも・・・でも・・・最後にそんな恋なん て悲しすぎるじゃん・・・真紀・・・行くなよ・・・行かないでくれよ・・・」 葵も涙が溢れ出ていた。私をこんなにも必要としてくれている事が嬉しくて、 このままこの地球にいられるような気がした・・・。 お互いに想いを確かめ合って、最後の時を過ごす恋人達。これは真紀にとって もマキにとっても初めてのことで、別れを経験するのも初めて。 手を握り合って、抱き合って。そんな2人に、舞い降りた光。 『マキ――お前の任務は・・・上手く行った。マキ、お前の任務は地球を調査す る事なんかじゃない。恋をすることなんだよ。』 真紀は驚いた。葵も驚いた。真紀はマキの頃に見た、あの研究室の人を観た。 「じゃあ・・・もうこの次点で私の任務は終わっているのですか・・・」 博士は優しい目で私たちを見ている。それは、まるで別れる恋人達を見ている 様な目では無い。 『マキ・・・いや、もう藍川真紀だね。キミは恋をした・・・誓いをした次点で人間 になれたんだよ。そして・・・もう人造人間じゃない・・・帰らなくていいんだ』 コレは別れの瀬戸際に見る幻じゃないか。真紀は頬っぺたを叩いた。痛い。 「帰らなくていいの?葵と・・・芽衣と・・・離れなくてもいいの?」 何の涙?きっと嬉しいからだ。こんなに嬉しいなんて感じたのは初めての事。 『帰らなくてはならないところで・・・離れないんだろ?真紀の方は』 博士は優しい目で、まるで娘を嫁に出す父親のような眼差しで真紀を見ていた。 そんな博士の言った台詞に対して葵が言った。 「そんな事の前に俺がコイツを掴んではなさねーよ」 そんな嬉しい台詞・・・、こんな嬉しい時間・・・永遠の未来があって・・・。 「生んでくれて有難う、コレはマキとして。それと・・・この地球に残してくれ て有難う。」 やがてその傷は癒えるだろう。人であろうと、何であろうと愛する事の尊さ。 何も変わらないんだ。涙はやがて微笑みに変わるだろう。 長い時を彼と共に行くことで・・・。 人間生活7日目を過ぎても、真紀が消えることは無かった。 でも、真紀の中のマキの記憶は徐々に薄れていった。 後から聞いた所、人間と宇宙の人類の出産実験をやりたかったらしい。 宇宙の滅び行く星々に愛の手を・・・差し出したかったんだよ、博士は。 そんな感じにマキの人生は終わった。 そして真紀の人生はまだ始まったばかり。 「真紀〜!!!!!早くガッコ行くよ、もう。入るよ、家!!!」 何時もの朝が来て、ガッコに行く毎日。朝は必ず芽衣がお迎えに来てくれる。 あの事の心の傷は癒えてきて、私の中でも思い出としてポケットに入れた所。 「ちょっと待って!!!今行くし!!あ〜カバン!!!!」 優等生のメッキも剥がれて性格は変わったし、(でも頭はいい)友達も増えた。 もちろん葵とも上手く行ってる。 学校に着いたら、私と芽衣、葵と晃の4人で過ごす。一番落ち着くし、クラスで もVIP扱い。(いや、嫌なわけじゃないけどね) 真紀は今一人暮らしだけど、何れはあなたと2人で・・・。 「ヤバイ!!!!!遅刻ぅ〜〜〜〜!!」 なんて叫びながら学校の廊下を走る。現にチャイムは鳴っている。この叫びに ドアを開けてわざわざ見る先生もいる(恥ずかしい・・・) 「よっしゃ、セーフ!!!」 ドアを開けたらもうホームルームは始まっていて、先生がそこには立っていた。 「アウト!!スリーアウトチェンジ!!!!」 野球部顧問の先生はそう茶化して言った。クラスも、あなたも友達も。 もう幻想じゃない。現実に、ほら、あるから。 「さ、席につきな。藍川、橘」 「はーい」 そう、まだまだ私の人生なんだから。 「葵〜メシ食べよ〜!」 「こら、女の子がそんなはしたない言葉使っちゃ、お母さん怒るわよ、真紀ち ゃん」 ふざけながらも楽しい私の人生、私の恋。 何れ花開くまで、見守っていて欲しいの・・・博士。 「もう・・・1ヶ月も経ったんだ、あれから」 「そうだな・・・暗くなるなよ☆今真紀が居るのはそのお陰なんだから」 目を開けば、そこには皆が居てくれる毎日だから。 それは博士が私にチャンスをくれなかったら始まらなかった、第二の人生。 「うん・・・そうだねv」 まだまだやってみせる。どんな困難をも乗り越えてみせる。誰にも負けない位 の心の強さで・・・2人で。 コポコポコポ…コポ……。コポコポ…… 「博士、『アイ』はあと一時間弱で誕生しそうです」 「おお、そうか。アイもマキのようになればいいのだが」 ワイングラスを手に持ってお互い注ぎながら2人は話している。 「博士、マキではありません。真紀ですよ、今は。真紀も未だ成功してません。 真紀の人生も恋も・・・始まったばかりですよ」 助手はワインを一口で飲み干して、博士を見た。 「ああ、そうだな。コレからが真紀の恋だ」 **END**
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