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苺ミルク。

苺ミルク。





今ちょっと気になるあの子は苺ミルクのアメが好き。
だから俺はいつもポケットの中に二つ入れている。
これは俺の、俺の中だけのゲームだから。




「沙也加、お前今日の古典の助詞の小テスト勝負!」
朝のSHR、隣りの席に座っている門倉沙也加に勝負を持ち掛けた。これは日
課だ。賭けるものは何でもいい。
「え〜!!裕平って暗記モノ強いじゃん〜!」
「まぁね。勝った方が今日カラオケ奢りね☆今日からアジカンのアルバム入る
らしい!」
「そうなの〜?それは勝って歌いに行かなきゃ!マイワールド歌うよぉっ!絶
対勝つ〜!負けない〜!」
沙也加の事が少し気になるのは外見がいい訳じゃない。何やっても俺に勝てる
訳ないのに一生懸命頑張る。そこがカワイイんだよね。外見は少しだけ大きな
目に睫毛が長く生えていて、目力も強い。まぁ、目力にやられた事はないけど。
ちなみに俺と沙也加はカラオケ仲間。好きなアーティストの新譜が入る日には
必ず歌いに行く。今日はその日だ。
初めて会ったのは学校…ではなくライブ会場だった。インディーズバンドのラ
イブで整理番号順に並んでいたら丁度前後になって知り合った。
そしたらクラス替えで同じクラスになって初めて同じ学校の奴だと知った。
てゆーかそれまでに学校について話さなかったのが不思議だけど。
授業中にでも聞きたい位無類のロック好きで、それでも苺ミルクが好き。
趣味はスポーツ観戦なのに、苺ミルクはすき。
ロックフェスで男に紛れてダイブするような女なのに、苺ミルクが好き。
男っぽいようで女っぽい。そんな所にギャップを感じる。
ひょっとしたら俺はそのギャップにやられたのかもしれない。




+++




今日の古典の助詞小テストは難しすぎるー!!『だに』は…類推だっけ?分から
ない〜。大体今の日本人、古典なんて使わないじゃん!!
古語喋る日本人なんて見た事ないし。意味の分からない助詞が用紙に並んでい
る。ちらっと周りを見渡すとみんな意外と書けている。
「分かんない〜!」
「こら、門倉沙也加!小テスト中に叫ぶな」
担任の元沢(通称;おやっさん)が私の方へ歩いて来て頭をど突いた。痛い。
「お前全然出来てへんやないか。お、お前の相方は空欄ナシやで?」
裕平は私の方を見て白い歯を見せ勝ち誇った笑みを浮かべた。ムカツク〜。
「ねぇ、おやっさん。私のやつだけ採点オマケして〜?」
「これは追試ないで?」
おやっさんは不思議そうな顔をして尋ねると
「俺らカラオケの奢り賭けて勝負してるんで」
裕平が答えた。そんな事なら昨日しっかり勉強しておけばよかった。
「多分俺が勝つけど」
おやっさんは溜め息をついて釘を刺した。
「頼むで、お前ら静かにせぇ。テスト中やでな。他にメーワクやで」
ごめんね、おやっさん。あぁ、これで今日また奢りで財布の中身が寂しくなる
なぁ〜。この前Levi’sのジーンズ買ったばかりなのに…。
カラオケって些細な出費だけどさ。積もるとね・・・。




+++




別に最近俺は勝ち負けなんてどうでもいいんだ。奢りだってホントはどーでも
いい。ただ何かにつけてアイツと関われるなら。
今も沙也加は少し抜けているから、おやっさんに怒られて少し不満げ。多分今
日のテストも俺が勝つから、きっとまた少し怒ったり落ち込んだりすると思う。
「テスト回収〜。最後尾速やかに回収して俺の机に届けといてや。あ、あと俺
これから出張やでこれから自習な」
さすがおやっさん。自習最高。俺は隣りの席の沙也加に向かって笑った。
「何〜?」
沙也加は少し頬を膨らませ、眉を顰めて俺を見る。何を言ってくるか気付いて
いるようだから、まさにその通りの事を言ってやろうと思った。
「俺の勝ち?」
沙也加がさらに眉を顰めたからまさにこれが予想道理の言葉なんだと思った。
「うん。全然分かんなかった」
「勉強した?」
「あんまり」
「しろよ。お前したら絶対出来るのに」
「ぷー!いいよ今日のカラオケは奢るよっ!次は負けないからっ」
沙也加はいつものように頬を膨らませ、目を瞑り精一杯変な顔をした。ホント
に変顔。よく異性にそんな顔を平気で見せれるなぁと思った。
それでもそんなコイツが可愛く見えたのは俺の目か感覚が狂っているからだろ
うか。俺はふと制服のズボンの中に手を入れた。
いつものようにあるのは苺ミルクの飴二つ。そのうちの一つを取り出した。
「沙也加」
「ん?」
「やるよ」
そう言って俺は飴を渡した。沙也加の少し変な顔が笑顔に変わった。
「くれるの?ありがとう、裕平」
これは苺ミルクパワーだと思った。
あいつを元気に出来るのはポケットに入っている苺ミルクだけなんだ。
俺でも、俺の隣の席の飯田でもない。
苺ミルクだけなんだ。




+++





口の中で甘い香りをさせているのは私の大好きな苺ミルクキャンディー。
私は気になっている事がある。聞けないでいるけど。
裕平がいつも苺ミルクを持っているのは私の為なんじゃないかって。
落ち込んだり、怒ったりするとアイツはいつも私に苺ミルクをくれる。
そんな時は少しだけ苺ミルクの甘さで心が落ち着いて、少し忘れられる。
苺ミルクの甘さはひょっとしたら裕平の優しさなんじゃないかとも思った。
私が好きな苺ミルクはいつでも甘くて、優しく包んでくれる。
それは何にも代えることが出来なくて、それさえあれば元気になれる。
誰にも、祐平にもそんな事は一言も言っていないけど、気づいたんだね。
まぁ、いつも食べてたらフツー気づくよね。
「ねぇ、沙也加」
「ん?」
話しかけてきたのは斜め後ろの親友、奈緒子。自習と分かって、恒例の席移動
をして私の隣に来た。
「大井とどうなってるの?」
大井とは祐平のこと。奈緒子は机に寝そべって尋ねた。宿題を持って来たのに
手をつける気配すらない。
「何もなってないよ〜」
「超ラブラブじゃん」
「んなことないよー。奈緒子こそラブラブじゃん、例の彼と」
「春日くん!!いい加減名前覚えてよ」
「ごめん」
春日くんとは、奈緒子の彼氏。去年奈緒子と同じクラスだったらしく、私は同
じクラスじゃなかったんだし、名前覚えるの苦手なんだから覚えてなくたって
怒らなくてもいいじゃん・・・。
「ウチんらの事より、今はYOUの話してるの。さっきの何?」
何って・・・それは、
「勝負?」
「は?」
「だからぁ〜・・・今日のカラオケのオゴリを賭けて勝負・・・」
「二人で行くの?」
「そうだけど?」
奈緒子の表情がみるみる変わっていくのが手に取るように分かった。
ちょっと怖かった。やっと宿題のためのノートを手に取ったと思ったら、それ
を机に叩きつけた。
「何それぇ〜、もう付き合ってるようなものじゃん」
「付き合ってないし〜」
「嫌いな人と二人でカラオケ行かないでしょ?」
「うん・・・でもいつも行ってるよ、会った頃から」
「会った頃?」
「うん。同じ学校って分かる前に、ライブで知り合って遊ぶようになったの」
またさっきのように奈緒子の顔が変化した。ここまで変化できるなんて、写真
に収める価値が出てくるかもしれない。ひょっとしたら。
「初耳だし!!なんで教えてくれなかったのぉ?親友でしょ?」
「・・・別にそんな事どうだっていいじゃん・・・」
だって所詮そんな事でしょ。今さえ知ってればいいじゃん。単純に会ったタイ
ミグとか場所とかなんて些細な事じゃん。
「オイ〜奈緒子いる?」
「あ、いまぁーす」
隣のクラスから、奈緒子の彼氏・・・えぇーっと名前・・・
「春日くん!どうしたの?授業中だよ?」
そうそう春日くん。あの人一体何しに来たんだろう、授業中なのに。
「逃げよ。俺もう帰るから」
「うん。ちょっと待ってて」
オイ、奈緒子帰るの?大胆というかラブラブというか・・・。
仲がいいというか。周りを見渡したら、女性陣がうらやましそうに奈緒子を見
つめてるのが分かる・・・。視線、痛くないのかなぁ。
「バカだなぁ〜あいつら。ホントに帰りやがった」
祐平が遠くの席から戻ってきて、いつもの定位置、私の隣の席に座った。いつ
もの笑みを私に向けて言った。
「大胆すぎるよねー二人とも。仲いいのは分かるけど」
でも正直そんな二人がうらやましくもある。あれだけ見せつけられるとちょっ
と私も恋とかしたいなぁ〜なんて思ったりする。今はそういう人、居ないけど。
誰だっけ、奈緒子の彼氏・・・えーっと・・・
「沙也加ぁ〜」
「ん?」
一瞬、祐平の横顔がやけに真剣に見えた。
「俺たちも行く?」
え・・・??それって・・・どういう事?


+++


ちょっとやりすぎたと思った。
どれだけ沙也加が鈍くてもさすがに気づくだろうと思った。
俺はポケットの中の苺ミルクの飴を握り締めた。沙也加は穴が開くぐらい俺の
顔を見つめている。絶対に気づかれた。
「・・・祐平ってさぁ・・・」
その次に来る言葉がいつもと違って予想できない。沙也加のクセに。
「そこまでして早くカラオケしたいの?」
さすが沙也加・・・。ここまで言っても気づいていないんだから驚きだ。
俺は沙也加の口からどんな言葉が出てくるのだろうと思って、内蔵が飛び出し
そうな程ドキドキしたっていうのに。見事に期待を裏切った。さすがだ。
「・・・まあね。だって次に授業もう無いし」
そういうしか無いし。カッコ悪いなぁ、俺。もしかして今の会話誰かに聞かれ
てたら相当恥ずいんですけど。
沙也加はいつもと比べてやたらとそわそわしている。やっぱり少しは気になっ
たのかなぁ。でもアイツなら気になったらすぐに聞くだろうし。
「あ、そっか。じゃあ行く?」
少し躊躇って沙也加はそう言った。俺はポケットの中の苺ミルクの飴を放して、
小さくガッツポーズをした。沙也加は既に鞄に置き勉以外の教科書を詰め込ん
でいる。今日の俺はいつもよりも大胆じゃないかと思った。
「行こうか」
クラスの奴らがさっき出ていった沙也加の親友と・・・その彼氏。あれ?アイツの
名前って何だっけ・・・。隣のクラスの奴。俺一緒のクラスになった事ないから全 
く知らないんだけど。っていうか俺、人の名前覚えるの苦手だし。
まぁ、そいつの名前なんてどうでもいい。
俺たちが荷物を持って揃って教室を出て行くのを、クラスの奴らがそのカップ
ルが出て行く時と同じように見てきたんだ。
「沙也加ちゃんって案外鈍いんだね」
通りすがりにボソッとそう呟いたのは俺の隣の席の飯田だった。
顔の体温が上がって赤くなるのを感じた。恥ずかしい。見られていた。
っていうか、飯田にはもうバレたみたいじゃん。
「うるせえよ」
不器用にそう言い放って、沙也加の手を引いて教室の扉を出たらその赤みが引
いていったのが分かった。
クラスの奴らには、俺たちはどう映ったんだろう。
まぁ、そんなことは正直どうでもいい。そんな事よりもこの先だよ。
俺、どうしたらいいんだよ?
俺は、離したくないこの繋いだ手をどうすればいい?



+++




温かい手だった。今の今まで祐平がこんなに温かいなんて知らなかった。
繋いだ手から感じるそれは、今まで知らなかった。
意識していなかっただけかもしれない。
だけど、こんな気持ちになるのは初めてだと思う。
祐平はその手を離さなかった。だけど離して欲しくなかった。
三年の教室前の廊下を祐平に引っ張られながら歩いていくと、他のクラスから
の視線が気になった。
まだ私の心の中には気になることがある。聞いてみようと思った。
だって、手を繋いだままなら思っていることも伝わると思ったから。
少し、心臓がドキドキするのが気になるけど。
「ねぇ、ずっと・・・聞きたかったことがあるんだけど」
脈打つ速さが加速するのを止めれない。なんで?
「何?いいよ、言って?」
祐平は手を引っ張る力を弱めて、歩く速度を緩めて、下駄箱の所で私の方に向
き直った。私のドキドキはまだ加速している。
「・・・あのさ、祐平いつも苺ミルクくれるでしょ?」
祐平が痛いくらい私を見てるのが分かる。向き直って離してるんだから当たり
前だけど。それでも祐平は手を離さないで、頷いて話を聞いている。
「いつも私が落ち込んだ時とか、泣きたい時とかに」
何か言って欲しい。誰も居ない昇降口で二人だけで、こんな至近距離で、しか
も向き合ってこんな話するのって凄く緊張する。
祐平となんていつも一緒にいるのに。意味が分からない。
「それって・・・祐平の優しさなの?」
やっと言えた。ずっと言いたかった事。
心臓の鼓動は山場を乗り切って加速は収まったみたい。
しかも祐平、笑ってるし。何で?
いつも見せる笑顔よりもさらに笑顔なんですけど。何で?


+++




まさかそんな事聞かれるとは。沙也加のクセに鋭くない?
もう笑うしかない。
でも、俺ちゃんといつもみたいに笑えてるのか?不恰好じゃない?
何て答えればいいのか全く考えられない。マジで心臓止まりそう。
しかもこの至近距離。俺が手を離してしまえばいいんだけど。
沙也加が離そうともしないし、何も言ってこないから離しづらい。
っていうのは嘘で、離したくない。
もうこのままホントの事を言ってしまおうと思った。
俺の自分だけの自分の中でのゲームはここで終わり。ゲームオーバーだから。
「俺さ・・・沙也加の事好きだから」
言った。言ってしまったよ。ついに。
マジでもうコレで何も反応なかったら死んでもいい。
いくら鈍い沙也加でもこれで何も反応なかったら、俺かなり生殺しだよ。
またポケットの中に手を入れると、ひとつだけ。
ひとつだけ苺ミルクの飴が残っている。
「それが理由。でも俺はお前のそういう・・・なんていうの?沈んだのとか嫌だか
ら。沙也加の事元気にさせるのは苺ミルクの飴だけだから」
これが俺の優しさだって?まさか。
優しさなんかじゃない。そうするしかなかったんだから。
苺ミルクじゃない俺は、アイツを慰めるのには役不足だった。
だから。
「・・・やっぱり優しかったんだね」
はい?
「だって、私はその気持ちが嬉しかったから元気になるんだよ」
繋いだ手を、沙也加がぎゅっと握ったのが分かった。
とりあえず俺はまともな反応が返ってきたことが嬉しかった。
もう笑うしかない。ホントに。
でも自身があるのは、さっきよりは上手く笑えてると思う。
だって、俺こんなにドキドキするし、嬉しいし。ヤバイってマジで。
「だから・・・」
そう言うと、沙也加が思いっきり抱きついてきた。マジかよ。
別に沙也加に抱きつかれるなんて事は良くあることだけど、今日は違う。
何か違う。
「私も好きかも」
「マジで?」
「マジかも」
ヤバイって。今日はホントに。ひょっとしたら今日のうお座の運勢1位かも。
俺はポケットの苺ミルクの飴を取り出した。たった一つの飴。
「やるよ」
沙也加が笑うのを感じた。その飴を受け取って、袋から出して口に入れてやる
と、沙也加から苺ミルクの甘い香りがした。
そのまま抱き合っていると、後ろからつけてきたんだろう、飯田とか俺の悪友
達が靴箱の影に隠れて覗いている。
高校生にもなってよくそんな事やるよアイツらも。
「よし、沙也加。カラオケ行くぞ!」
だって今日は新譜が入る日。
「うん。奢らせていただきます」
今度は違和感なく繋いだ手を引っ張って、グラウンドを駆け抜ける。
俺は多分、ゲームに勝ったんだと思う。
ポケットの中の、スペア用の苺ミルクはもう、食べたから。
あとは苺ミルクが口の中で広がる時のような、甘い時間が待っている。

多分。多分ね。



**END**





















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