++Godfather++




事っていうのは慎重に運ばなければならない。
それはどんなに大きな事でも小さな事でも。
持論としてはあまり自分で手は下したくない。
俺が手を下すのは最後か緊急の時だけでいい。
なんでかって言うと?
あまり面倒な事を起こすとサツに目立つから。俺はピースラバーなんでね。
嘘だけど。
まぁ、嘘だけどね。




「恭二さん、例の件ブツは取り押さえましたよ。シャドの居場所はまだ分から
ないんですが」
外見チャラ男の健作は俺に小さな紙袋を渡した。中身はスタンガン。
健作と俺は高校3年の時に知り合った悪友だ。
同じ高校だったわけではなく、偶然バイト先で知り合った気の合う奴だった。
俺は歩いていると風貌からチーマー系だと思われると思うが、健作に限っては
どう見てもギャル男に見える。かわいそうに。
別にココルルやアルバの服を着ているわけじゃないし。
あいつは実はそう思われるのが嫌い・・・らしい。
「あまりこういうモノ好きじゃねぇけど。気絶させるならコレだよな」
ここは少し埃が多く、部屋の壁はコンクリートで囲まれている。
誰も使ってない掘り出し物の倉庫。チームの溜まり場には丁度よかった。
アホな奴等がテーブルやら家具類を買ってきて過ごしやすい空間を作りやがっ
た。俺達レッドの本拠地だ。カラーギャングみたいだけどそんなつもりは俺、
更々ないんで。
「すぐに居場所見つけます。絶対マサトの敵はとりましょうね!」
「ああ」
絶対だ。




シャドだけは許さない。
あいつだけは死んでも許さない。唯一俺が手を下してもいいと思った奴。
チームの抗争に巻き込まれた仲間じゃない俺達の友達、マサトは死んだ。
シャドの野郎に突然教われてスタンガンでやられて、気を失うだけの所をうっ
かり死んだ。俺達の友達ってだけで、丸腰の関係ない奴を手に掛けた。
俺は、俺達は絶対許さない。
あいつだけは。




マサトは俺達の、レッドの仲間じゃなかった。
レッドには俺が高校時代つるんでいた奴らが多く居る。
マサトは俺達と同じ高校で、俺と同じバイト先だった。
いい奴で、バカ高にだったのに嫌に頭がキレて、それなのに俺達とつるんでい
た度胸のある奴だった。
高校を卒業してから、あいつは俺達とは違って大学に進学した。
バカ高から国立の大学に入った。俺達の知らない所で死ぬほど努力したらしい。
そんな忙しい奴だったけど、よくこの倉庫へ遊びに来て色々話した。
俺達はみんなマサトが好きだった。
高校の時からつるんでいた奴らも、レッドに入ってからマサトを知った奴も。
その日はマサトが俺達の倉庫へ来る途中だったらしい。
マサトはずっと、ずっとシャドに狙われていた。
この世から、一つ俺達の大好きだったものがなくなった。
大切な友達が亡くなった。
この痛みは、同等の痛みで返すしかない。




「ねぇ、恭二、チームやめないの?」
この女、彩子は俺にチームをやめろと言う、勇気と度胸のある女。
マサトのようにいつ狙われるか分からないのに俺の彼女をやっている聞き分け
の悪い女だ。
その女は倉庫に置かれたチームカラーであるレッドのソファに寝転がりながら
話しかけてくる。
彩子も仲間じゃないのにこの倉庫に入り浸っている。
まぁここに来るのは俺の彼女だからしょうがないけど。
「ああ、まだやめない」
「まだってどういう事?」
「復讐が終わったら」
「ふーん」
俺が死んでも守ろうと思った女は相当ヤリ手だ。
復讐がどのようなモノかを知っておきながら、チームをやめろと言う割には何
も言及しない。
「これが最後だから」
彼女にはマジで感謝している。
大好きだ。




「シャドの居場所分かりましたよ、恭二さん!」
俺はまだ動かない。動いてはいけない。
モトオが勢いよく倉庫の扉を開けた。モトオも俺のバイト先の友達だった奴だ。
俺のバイト先?それは内緒。でも普通の場所じゃない事位は分かるだろ?
「おし、じゃあミッションS行ってこい!」
マサトはシャドって言うあいつにとって知らない奴に殺されたんだから。
「ハイ。マサトの敵討って来ます!」
あいつは味わった方がいい。
苦しみを、知らない奴に平伏される苦しみを。
同じ目にあう痛みを。死にかければいい。
出来るなら俺の手で、でもそれじゃああいつは苦しめない。




シャドは一人で裏通りの人一人いない路地へ入った。
健作とモトオはシャドを尾行していた。
誰もいない場所で一人になるのを待っていた。
「健作」
モトオが健作に合図を送った。健作とモトオはシャド、隣町に拠点を置くオレ
ンジというチーマーのリーダーを掴まえた。
「んだよお前」
シャドはチームカラーのオレンジのつなぎを着て、鼻ピアス、タトゥーという
チーマーのリーダーらしい出で立ちだ。
健作は少し笑った。シャドが丸腰だと分かったからだ。
そんな事は珍しかったのでまた健作はおかしくなった。
「テメェに用があるんだよ、シャド。いや、照夫さん」
健作はわざと照夫と呼んだ。シャドの由来はシャドーから来ている。
と同時に脅しをかけたかった。本名で呼ぶのはシャドに対する挑発だ。
「んだよお前ら!何の用だよ!」
モトオは一人でシャドを押さえた。線の細いシャドを押さえるくらいプロテイ
ン摂取でガタイのいいモトオには余裕だった。
それを見ると健作はまた笑ってスタンガンを取り出してシャドにチラつかせた。
スイッチがオンになっているので電気の弾く音がする。
「誰だ、お前らは。誰だ、ゴッドファーザーは」
シャドは少し怯えた目で健作に尋ねた。そこには抗争の時、強気で先陣を切っ
て登場してくる強いシャドはいなかった。逃げようと暴れるがモトオの力の前
にはどうしようもなく、丸腰を悔やんだ。
健作はやっぱり笑っていた。
「さあね」
そのスタンガンをシャドに当てた。シャドは呻き声を挙げて気絶した。
モトオは直ぐに手を放したのでシャドは道端に崩れ落ちた。
「死んでもゴッドファーザーは誰か教えねぇよ」
健作は倒れているシャドの頭を踏み付けて、そう言い残して二人はその場を立
ち去った。健作もモトオもマサトを殺したシャドを殺してしまいたい程に恨ん
でいた。スタンガンで気絶させてボコるだけでは気がすまなかった。
気絶した憎き男、敵対するチームのリーダーであり、友達を殺した男を目の前
にして気絶する以上の施しをしてやれないのが残念でしょうがなかった。
二人はそこらのゴミ箱や置いてある物という物を蹴り散らかしながら倉庫へ戻
っていった。




俺の元に知らせは直ぐに入った。
シャドこと朝倉照夫はあっさりモトオのバカ力とスタンガンにやられたらしい。
残念ながらオレンジの奴等が報復に来る事はないだろう。
俺達レッドがやったという証拠がない。
スタンガンは直ぐに始末するし、健作もモトオもシャドどころかオレンジの奴
等は全く面識のない奴だから、レッドのメンバーとは気付かない。
そのためにメンバー総動員させなかったんだ。もし俺達が疑われたとしてもあ
いつらとの繋がりを隠しておけばサツは動かない。
非常事態になったらマサトを殺した事をトランプカードにすればいい。
事は慎重に運ぶのだ。どんな大きな事でも小さな事でも。
ゴッドファーザーはこの俺。
シャドには死んでも気付かせない。
今ごろシャドはうっかり死んでるかもしれないけど。
ゴッドファーザーはこの俺。
俺はこれを最後にチーマーを卒業する。
今チームのアホ共が俺の卒業祝いを準備してる所だ。
ホントにアホなカンパニーだよ。
まぁ、女のいいなりでチーマー卒業する俺も十分アホだけどな。
それでも心残りはない。復讐は終わった。
俺には似合ってたけど、もうゴッドファーザーには飽きて来た所だから。
俺の、この、リーダーの、ゴッドファーザーの座はくれてやるよ。
誰にでも。



**END**














 




 
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